私は主に脊柱管狭窄症の症状を二つのタイプに分類しています。安静時痛のある「炎症型」と安静時痛のない「疲労型」の二つです。炎症型と疲労型ではそれぞれ適した治療法が異なるため、この分類法は非常に有意義だと考えています。
炎症型の場合、まず安静にして炎症を抑えることが重要です。炎症というのは、患部が赤く腫れあがる症状です。安静にしていても痛みがあり、治療しても痛みや腫れが引くまでには2~3週間かかります。治療法はまず消炎鎮痛剤を使います。消炎鎮痛剤で炎症が引かない場合は、神経ブロック注射で神経に直接炎症止めの薬を注入します。それでも痛みが引かない場合は、炎症が引くまで2~3週間入院していただくこともあります。入院して炎症を抑える治療をすることで7〜8割が改善しますが、3週間以内に改善しない重度の場合は、手術を検討することもあります。
疲労型の代表的な症状として挙げられるのがいわゆる間欠性跛行(かんけつせいはこう)です。間欠性跛行は歩くうちに足腰の痛みやしびれが強くなり、少し休まないと再び歩くことができなくなる歩行障害のことです。神経の疲労回復には、2~4週間はかかります。患者さんには、「神経に疲れがたまって痛みが出ているのですから、2~4週間は安静にして過ごしましょう」と指導します。
私の経験では、2~4週間しっかりと安静にすれば、約7割の患者さんに痛みやしびれの改善が見られます。痛みが改善した7割の患者さんには、日常生活の指導を行っています。具体的には、実際に歩いてみて、自分の限界を見つけていただきます。限界が5,000歩だとしたら4,000歩以上、2,000歩だったら1,600歩以上は歩かないようにとアドバイスします。つまり、「8割の生活」を心がけるということです。
自分の限界を時間で決めてもかまいません。30分歩くと足腰が痛んでしまう人は20分、5分が限界の人は4分で休むというように、8割の生活を送ることが大切です。一度に30分しか歩けないとしても、朝・昼・晩の3回にわけて20分のウォーキングをすれば、1日1時間歩くことになります。私が診察する患者さんの中には、実際に8割の生活を心がけ、痛みやしびれを感じずにウォーキングを日課にされている方が大勢いらっしゃいます。
脊柱管狭窄症と上手につきあっていく方法を見つけることが大切です。私がおすすめする「8割の生活」を心がければ、痛みやしびれを悩まされることなく今後の人生を過ごすことも十分に可能なのです。