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第13回 骨粗しょう症性脊椎骨折

今回は、高齢者に多い骨折の1つである『骨粗しょう症性脊椎骨折』について、東京都千代田区にある三楽病院の脊椎脊髄センター佐野さの 茂夫しげお先生にお話を伺いました。佐野先生は日本脊椎脊髄病学会の指導医であり、これまでに約2,700例以上の脊椎インストゥルメンテーション手術経験を持つスペシャリストです。

  1. 骨粗しょう症性脊椎骨折とは
  2. 症状
  3. 診断
  4. 治療
  5. 高齢者の脊椎手術
  6. 退院後に気をつけること
  7. まとめ

骨粗しょう症性脊椎骨折とは

骨粗しょう症というのは、骨の強度が低下してもろくなり、容易に骨折を起こす病気です。それによって起こる骨折が骨粗しょう症性骨折です。骨折が起こ りやすい部位は、転んだ時に手をついて骨折する「手首」、「太ももの付け根(大腿骨頚部骨折)」、そして「脊椎」です。
骨粗しょう症性脊椎骨折には、椎体がつぶれるだけの「圧迫骨折」と、骨片がはじかれて後方に飛び出す「破裂骨折」があり、重症度によって症状や治療が異なります。
骨折の起こりやすい部位は、胸椎の下方と腰椎の上方で、ちょっと尻持ちをついたとか、何かにつまずいて転んでしまったとか、軽微な外力で発症することがあります。

症状

椎体の断面図(正常)

発症初期には、非常に強い痛み、起き上がれないような痛みを伴います。慢性期になると、持続する痛みや、背骨がつぶれたことによる姿勢異常(後弯(こうわん)変形による腰曲がりの状態)によるものとがあります。後弯になると、胃が圧迫されて苦しくなったり食欲不振になったり、逆流性食道炎のような症状 (ゲップが出るなど)が出ます。

時に、動けなくなるほどではなく、「ちょっと痛い」くらいの痛みで、気がつかないうちに骨折が起こっていたという人もいます。
圧迫骨折では椎体の後ろの壁(後壁)が保たれていますが、破裂骨折は後壁も骨折を起こしており、後壁が骨折すると、骨折片がさらに後方にある神経の通 る脊柱管内に飛び出して、脊髄を圧迫することがあります。その場合は、腰の痛みだけでなく、下肢へ走る痛みと麻痺がおこり、足が動かない、おしっこが出な いなどの神経症状が出ます。

診断

通常はレントゲン検査で診断することができます。レントゲン写真上は、骨がつぶれていて、くさび状に変形して見えます。中には、「痛みは強いけれどレ ントゲン写真上は何ともない」という人もいます。そのような場合は、MRI検査で診断をします。骨の形は保たれていてもMRIでは輝度に変化があり、骨折 と診断できます。例えば、一つの椎体だけでなくいくつも骨折している場合がありますが、そのような場合も、MRI検査を行うと、古い骨折なのか新しい骨折 なのかが診断できます。また、最初は骨に変形はなくても、あとになって徐々に骨がつぶれてくる場合があるので、痛みが続いていれば何回かレントゲンを撮る 必要があります。

治療

1. 保存治療

麻痺などの神経症状がない場合は、まず保存的な治療を行います。多くの患者さんは保存治療で症状の改善がみられます。
通常は2週間くらいベッド上で安静にして、痛みが治まったところでコルセットを作り、2~4週の間にはコルセット装着で起き上がることができるようになります。
保存治療では、骨折した椎体がそのままの状態で固まるのを待つことになります。また、ロール枕を腰の下に入れ、腰をそらした状態で臥床安静を保つことで若干の矯正を試みることもありますが、効果はあまり期待できません。

2. 手術治療

① 経皮的椎体形成術(けいひてきついたいけいせいじゅつ)

十分な保存治療を行っても痛みが取れない場合には、経皮的椎体形成術の適応となります。これは、近年脚光をあびている治療法で、骨折した椎体の中に骨セメントを注入して椎体を安定させるというものです。エックス線で確認をしながら行います。
椎体の中に入れるものには、人工関節手術で使用しているセメントのほか、リン酸カルシウム骨セメント、アパタイト(ハイドロキシアパタイト=骨の主成 分)のブロックなどがあります。骨セメントの注入方法については、針を刺してそこから骨セメントを注入する方法と、BKP(Balloon Kyphoplasty:バルーンカイフォプラスティ)と呼ばれる方法があります。
BKPは、骨折した椎体の中に非常に丈夫なバルーン(風船)を入れ、それを膨らませることによってつぶれた椎体をある程度押し広げて空間を作り、その 中に骨セメントを入れる方法です。以前は、経皮的椎体形成術の合併症として、注入したセメントが脊柱管内にもれて神経を圧迫して麻痺を起こしたり、血管内 に入ってそこから肺塞栓症を起こすリスクがありましたが、現在は骨セメントの改良と手技の改善によって、そのリスクはかなり減りました。特にBKPはその 安全性を重視したもので、「大きくできた空間に、固まりつつあるセメントを置いてくる」というやり方なので、セメントが漏れ出すことが少なく、安全性が高 いのです。ただし、後壁が折れている破裂骨折のひどい症例などには適応はありません。
手術時間は30~1時間以内に終わります。BKP以外の経皮的椎体形成術の多くは局所麻酔で行われますが、BKPは全身麻酔なので手術中の痛みはな く、術後もほとんど痛みを伴いません。術後は、患者さんの状態にもよりますが、通常は数日~1週間で退院できます。

② 脊椎インストゥルメンテーション

金属のスクリュー(ネジ)やロッド(棒)を用いて脊椎を固定したり矯正したりする手術です。神経症状がある場合には、脊椎インストゥルメンテーションとともに、神経除圧術を行い、麻痺の改善をはかります。
破裂骨折で麻痺が起こっている場合、後弯変形が強い場合、また、保存治療で骨がうまくつかずに脊椎が不安定になってしまった場合などに適応となる手術 です。破裂骨折でも、神経の圧迫が軽度のものは保存治療で様子をみることもありますが、40~50%以上脊柱管を占拠しているような場合は、手術をして神 経の圧迫をとること(除圧)が必要です。
健常な骨ではスクリューはよくききますが、骨粗しょう症では骨がもろいために、スクリューを入れた部分で骨折を起こしたり、挿入したネジがゆるんで抜 けてしまうことがあります。そこで、ネジを入れる部分に人工骨や骨セメントを入れて補強したり、通常より多くのネジを使用したり、フック(骨に引っかける タイプの金属)を使用したり、ワイヤーやテープを使用したりと様々な工夫が必要です。
後弯変形が固まってしまっている症例では、インストゥルメンテーションだけでは矯正しきれないため、骨を切り取って姿勢を変えること(骨切り)も行います。こうなるとかなり難しい大がかりな手術になります。
このように、骨粗しょう症を持つ人の脊椎手術は様々な工夫と技術が必要で、熟達した医師でないと難しい手術になります。

高齢者の脊椎手術

当院では、脊椎インストゥルメンテーション手術を約2,700例以上行ってきましたが、その中には高齢の方も多く、若年者とは異なる医療が必要となります。
高齢者の手術に対しては、過去の症例から、年齢別の手術侵襲(手術時間と術中出血量)の安全域を示すスケールを作成して、無理のない手術を行うことで 合併症予防に努めています。例えば、ひどい後弯を矯正する手術は5~6時間かかります。85歳の患者さんにそのような手術を行うのは体力的な限界を超えて おり危険です。このような場合は2回に分けて手術を行います。手術を2回に分けることで高度な治療を行うことができるようにもなります。
超高齢者で骨切りが必要な症例の場合は、1回目はネジを入れて仮固定を行い、2回目に骨切りをして最終的な固定をおこないます。また、前方と後方の両 方からの固定が必要な場合も、1回目に前方を固定し、2回目に後方を固定するというように、2回に分けるのが安全です。2回目の手術は、1回目の手術から 体力が回復する約1ヶ月後に行っています。ですから、通常のインストゥルメンテーション手術は術後1カ月で退院となりますが、2回に分けて行った場合は、 1回目の術後1カ月+2回目の術後1カ月の計2カ月で退院となります。

退院後に気をつけること

退院後しばらくはコルセットを装着します。また、寝たきりになるとさらに骨が弱くなるので、散歩などの運動をお勧めしています。さらに、片足立ちでバランスを保つ訓練や、足腰を鍛える体操などを行い転倒防止に努めます。
そして、処方された治療薬をきちんと服用することも大切です。骨粗しょう症治療には、骨吸収を抑制してカルシウムが骨から逃げないようにする薬(ビス ホスホネート)を用いますが、骨折の治療をした人にこの薬を用いると骨折した部分が治りにくくなると考えられるため、骨形成を促進するような注射薬(副甲 状腺ホルモン製剤)を処方しています。
骨の強度は、骨密度と骨質で決まります。加齢によって骨粗しょう症になる人は、この両方ともが悪くなるため、骨密度を上げるにはカルシウムを摂取し、 さらに骨質を改善する薬を使用する必要があります。また、女性に限り使用できるものでSERM(選択的エストロゲン調整薬)という女性ホルモン製剤もあり ます。
骨粗しょう症が根底にあるため、骨折の個所を治療しても、隣接する椎体が新たに骨折してしまい、後弯になってくる場合が多くあります。治した椎体がさ らにつぶれるというよりも、治療していない椎体がつぶれることの方が多いのです。また、1か所骨折が起こると、次に起こる確率が高くなることが示されてい ます。新たな骨折を予防するためにも、適度な運動と確実な薬の服用、そして、転ばないように気をつけることが大切です。

まとめ

骨粗しょう症性脊椎骨折の治療は、最近非常に進歩してきました。これまでは、保存治療しか選択肢がなく、圧迫骨折の人は主として保存治療、破裂骨折で も軽いものは保存治療、重症の場合のみ手術治療が行われてきましたが、その結果、痛みが軽快せずに寝たきり状態になってしまう場合も少なくありませんでし た。
しかし、現在は、もっと早くに動けるようになり社会復帰できる治療があります。特に経皮的椎体形成術、その中でもBKPは、保存治療と大きな手術との 中間的な治療として非常に有効な治療と考えています。手術の方法も非常に進歩し、患者さんの状態に合った治療ができるようになりました。高齢だからといっ て積極的な治療をあきらめずに、脊椎専門医に相談されることをお勧めします。

佐野 茂夫 先生メッセージビデオ
三楽病院 ホームページ
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